ユーラシア大陸横断の旅
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琵琶湖とブラックバス
20060605
極めて特別な湖・琵琶湖
湖の寿命は、流入する河川からの堆積物で埋まってしまうため、数千年から数十万年が普通といわれています。 ところが琵琶湖は約400万年前もから存在し、40万年前から現在のような姿になりました。これはバイカル湖・タンガニイカ湖に次ぐ世界第三位の古さです。

このように十万年以上存続している湖のことを「古代湖」(Ancient Lake)と呼びますが、現在にいたるまで、地球上に古代湖は数十箇所しか確認されていません。

代表的な古代湖としては、先に挙げたもの以外に、カスピ海・チチカカ湖・ビクトリア湖・オフリド湖などがあります。バイカル湖とオフリド湖は、私も訪れたことがありますが、どちらも透明度の高い非常に美しい湖です。(バイカル湖は凍っていたので、直接確認したわけではありませんが。)

内水面は一種の閉鎖空間ですから、古代湖では数百年にわたる独自の進化を遂げた生態系が生まれることになります。固有種と呼ばれる、そこでしか見ることのできない生物が多く棲息していることが古代湖の特徴です。 バイカル湖のバイカルアザラシは有名ですね。

チチカカ湖では、生息する魚の約80%、貝類の約90%が固有種という驚くべき生態系が維持されています。 もちろん琵琶湖にもビワコオオナマズ・ホンモロコ・セタシジミなど、琵琶湖水系にしか存在しない固有種または固有亜種が多種棲息しているのです。

琵琶湖のブラックバス
だからこそ思うのです。地球上でこれほどまでに貴重な生態系を有する琵琶湖に、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚を放流したのか、よりによって、なぜ、と。

滋賀県では2003年4月に「滋賀県琵琶湖レジャー利用適正化条例」が施行されました。
外来魚のオオクチバスとコクチバス、ブルーギルの再放流禁止を規定する条例ですが、琵琶湖を擁する滋賀県としては当然の措置でしょう。ラムサール条約登録湿地であり、世界遺産に登録されてもおかしくない地域ですから、むしろ遅すぎたぐらいです。

ところが制定前の意見募集では、約2万2100件のうち、9割以上が禁止規定に反対したそうです。
確かに、新潟県や岩手県などでは、内水面漁場管理委員会の指示で再放流を禁じているものの、都道府県で再放流禁止を盛り込んだ条例があるのは滋賀県だけですから、過激な条例と受け止められたのかもしれません。 しかもこの条例に反対して訴訟を起こした人たちがいます。

タレントの清水国明さんたちです。彼らは滋賀県を相手取り、リリース禁止義務の不存在確認と各10万円の慰謝料支払いを求めましたが、2005年2月7日の大津地裁の判決で、不存在確認は却下、慰謝料請求も棄却されました。
当然の判決でしょう。ここは琵琶湖なのです。

ラムサール条約登録湿地である琵琶湖の生態系を守るための措置をとるのは、県として当然ではありませんか。外来魚はもともと琵琶湖に存在しなかった種ですから、たとえそれが10匹であろうと10万匹であろうと駆除の対象にしなければなりません。
固有種が多数棲息する琵琶湖においては、たとえそれが日本の在来種であろうと、ほかの水域に棲息する種は、不用意に移植すべきではないのです。

南アフリカ共和国では、アカミミガメ(ミドリガメの成体)を逃がせば法律で罰せられ、カメを見つけた場合には殺すことになっています。
オーストラリアでは、クイーンズランド州のドーソン川流域やドルンダダム内でティラピアが見つかった場合、水産試験場への報告が義務づけられており、釣ったり捕らえたりした者には、高額の報奨金が支払われることになっています。 帰化動物から生態系を守るために他国では実に真剣に取り組んでいます。

清水国明さんの経歴を見ると、芸能界きってのアウトドア派で、自然体験イベントや講演活動を全国的に展開しているとのことです。しかし琵琶湖の生態系に関して、これほど無知な人が「自然」などに関わる仕事をしてかまわないものなのでしょうか? 古代湖である琵琶湖と人造湖であるダム湖を一緒くたにしてみたり、もうこの人の理屈は滅茶苦茶です。「バスを殺すな(湖も死ぬ)」ですって?
人造湖であるダム湖や、皇居の御堀でキャッチアンドリリースするのは別にかまわないでしょう。ただし周辺の生態系に影響のない範囲でです。
だいたいすでに、自然湖である河口湖では、合法的にオオクチバスが放流されているではありませんか。これだって本当は問題なのですが、ワカサギ漁で生活できなくなった漁師たちが苦肉の策として、仕方なくブラックバスを漁業種にして釣り客からカネをとって生計を立てているわけです。米軍基地のある町と同じ構造ですね。迷惑だけれども、それをアテにして生活していかねばならないという…。まっとうな漁師であれば、釣り客などを相手に生計を立てるなど、屈辱的なことでしかないのです。地元の小学生たちは、観光客の捨てたゴミ掃除のために、夏休みには駆り出されているのではありませんか? ところが「バスやギルで食えんようになったら、バスやギルで食えるように考えたらよろしいやんか」と、清水国明さんは漁師たちに向かって言い放つのです。
河口湖だけではなく、ブラックバスが合法的に放流されている自然湖はたくさんあるのですが、それでもまだ不足だというのでしょうか? たかだか80年ほど前には日本に存在しなかったサカナが、これほど日本のあちこちで幅をきかせるようになったことは、異様なことではないのですか?

生態系を守ること
自然を守るということは、とりもなおさず生態系を維持するということに他ならないのですが、清水国明さん的なものの考えでは、とりあえず水のなかにサカナがいれば、それがブラックバスでもホンモロコでも同じになってしまいます。
こういう人は、ススキの原っぱも、セイタカアワダチソウの原っぱも、同じ“自然”に見えるのでしょうか? そうであればもう日本人としての感性を失っているとしか思えません。私はススキの原っぱが好きですし、ススキと競合するセイタカアワダチソウなど駆除の対象でしかありません。万葉集にも詠われるススキと、外来種であるセイタカアワダチソウを同一視などできません。日本人ですから当然のことです。

ブナの原生林もスギの人工林も、なるほど同じミドリかも知れませんが、それを取り巻く環境も生態系も人の暮らしもまったく違うものであって、同じ“自然”ではありません。
守るべきは一度失ったら取り返しのつかぬブナの原生林であって、ブナの原生林を払って、スギの人工林にしてしまったら、それは自然が破壊されたことになるのです。
まさかゴルフ場やスキー場へ出かけて“自然”と触れあった、なとど考える人はおりますまい。しかしブラックバスを“自然”だなどと考える人たちは、ゴルフ場やスキー場で“自然”と触れあっていると感じているのと同じことです。

琵琶湖の場合、もちろんブラックバスに代表される外来魚だけが問題なのではなく、水質汚染や埋め立てなど、高度経済成長時代以降の急速な環境汚染も問題です。私も滋賀県に5年ほど住んでいましたから、ずいぶん生活排水も流しました(なるべく合成洗剤は使わぬようにしてきましたが…)。しかしラムサール条約登録後、県をあげてヨシ原の回復などに努めており、県民の意識だって変わってきたように思います。
清水国明さんたちの主張は、琵琶湖の生態系の変化は環境汚染が問題だというものです。もちろんそうです。そして外来魚も大きな問題のひとつです。環境汚染も問題ですが、だからといって外来魚を認めるというのとは、まったくの別問題です。両方ともに取り組まねばならない問題なのであって、環境汚染がどうあれブラックバス問題が免責されるわけではありません。特に北湖では環境汚染よりも外来魚が問題になっているのです。

数十万年もかけて育まれ、維持されてきた琵琶湖の生態系が、私たちの代でまったく違った生態系に変わってしまうということについて、危機感とまではいわぬものの、せめて後悔とか悲しみとかを共有することはできないものなのでしょうか? 同じ日本人として。
 
 
 
 
 
 
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